実店舗とECの両軸で事業を展開する中で、顧客体験の向上を目指して店舗とECの連携による「オムニチャネル化」に取り組む事業者さまが増えています。
しかし、オムニチャネル化を推進しようとすると、社内でさまざまな障壁に直面することが少なくありません。オムニチャネル化は組織やシステムに大きな変更が加わるものであり、スムーズな進行と組織への浸透には、事前の整理と適切な対処が不可欠です。
本記事では、さまざまな企業様のオムニチャネル化のご支援をしている筆者が感じる、生じやすい課題と準備しておくと良い点について、「オムニチャネル化の検討段階」と「オムニチャネル化の進行段階」に分けて解説します。

オムニチャネル化の検討段階
オムニチャネル化の検討段階で重要なのは、「なぜこのプロジェクトを行いたいのか」という目的や、「どんな仕組みとするのか」の全体像を明らかにすることです。
組織内の意識を統一したり、いま利用しているシステム周りを整理しておくことで、本来の目的に沿って高いビジョンで物事が進むとともに、実際の導入時にトラブルを最小化し安全に進行できます。
組織内の意識統一、システムの整理それぞれについて詳しく考えるべきポイントを解説します。
準備① 会社(ブランド)全体で目標・価値観を共有する
全社を挙げて推進するプロジェクトで最も重要なのが、全社レベルでの意識統一です。「現在の課題を解決し、お客さまとの豊かな関係性の構築」を進めることの重要性について、社内で合意形成しましょう。
実店舗とECの組織が別々に運営されている環境では、顧客接点ごとに情報が分断され、目標が異なっている場合もあります。
日々の業務対応に追われる中では、新たな取り組みによって不安が生じることは仕方ありません。しかし、「店舗とEC両方で会員登録しなければいけない」「貯めたポイントが店舗だけ(ECだけ)でしか使えない」「会員データベースが分散している」といった差し迫った課題があり、それらの課題を解決するために、オムニチャネル化の検討がスタートしたはずです。
オムニチャネル化することで顧客の体験がどのように向上するか、事業にどのようなメリットがあるのかについてプロジェクトの責任者が整理し、関係者に周知して意識を揃えます。
さらに、部門間の協力を促進するための仕組みづくりもできるとよいでしょう。
例えば、「オンラインからの実店舗誘導数」や「店舗での接客を受けた後、オンラインでの購入を行ったお客様数」など、部門を超えて全社の利益に貢献する活動を適切に評価するKPIを設けることが効果的です。
ブランド全体でオムニチャネル化を進めた成功例として、ハーブ・アロマテラピー商材を扱う「生活の木」の取り組みをご紹介します。
生活の木さまでは、一部署だけでプロジェクトを進めるのではなく、現場を巻き込む形でオムニチャネル化に取り組まれました。具体的には、店舗経験のある若手社員をコアメンバーとして起用し、現場の視点を活かしながら部門間の調整を進めました。
当初、スタッフからは新しいシステムへの移行に対する不安の声も上がっていましたが、綿密に事前準備していたことも功を奏し、稼働後3ヶ月程度で不安の声は自然と解消されました。
生活の木さまにおける、お客様により最適な情報を届けるためのオムニチャネル化の全貌やその効果については、Omni Hubの事例インタビュー記事もご参考ください。
▼ 生活の木さま インタビュー事例記事
準備② 各部門で利用している業務システムを把握する
オムニチャネル化を推進するためには、業務システムの追加や改変など、システムに関する調整が必ず発生します。
システムを改変する上で、まず行うべきことが、現状のシステムに関する把握です。
店舗とオンラインストア、それぞれの部門でシステム導入の担当者が分かれている場合、利用中の業務システムの全体像を把握できていないことがあります。この状態で店舗・オンラインストアのデータ統合などを進めようとすると、既存のオペレーションに大きな影響が出ることが後から発覚するなど、落とし穴にはまってしまうことがあります。
最初に、既存の基幹システムなど利用しているものを洗い出し、どのシステムが何の業務のために利用されているのか、どのようなオペレーションで稼働しているか整理しましょう。
そのうえで、オムニチャネルシステムの導入や切り替えを検討します。既存システム・オペレーションを把握した上で検討を進めることで、システムとして実現するべきものが明確になり、トラブルを最小限に抑えながら進行することが可能となります。
オムニチャネル化の進行段階
既存の業務システムの整理や新たに採用するシステムの選定、オムニチャネル化についての両部門の合意が取れたら、いよいよオムニチャネル化プロジェクトを進行していきます。ここからは、オムニチャネル化を進める際に準備すると良い点を記載いたします。
準備③ 全社員・店舗スタッフへ啓蒙活動を行う
新たなシステムを導入する際は、関係する従業員への研修が不可欠です。特にオムニチャネル化を成功させ、お客様の購買体験をより豊かにするためには、店舗での案内や活用が重要です。そのためには、店舗スタッフの協力が欠かせません。店舗スタッフが疑問を持ったまま導入を進めると、店舗での会員獲得などの施策が浸透しづらくなります。なぜオムニチャネルに取り組むのかの意図を共有し、店舗での対応を整理して周知しましょう。
実際の業務に合わせた社内マニュアルを用意して現場の不安を軽減することも重要です。動画も活用するとより効果的です。
実際の取り組み事例として、キャンディ専門店「PAPABUBBLE」をご紹介します。
PAPABUBBLEさまでは「1年後、60万人のお客さまと繋がる」という具体的な目標を掲げ、スタッフが一丸となって取り組める体制を整えました。店頭での案内方法を解説する動画マニュアルの作成や、説明会での丁寧な不明点解消により、店舗スタッフへの周知を徹底しました。その結果、一部店舗では来店客の約7割が会員証を提示するなど、高い成果を上げています。
▼ PAPABUBBLEさま 事例記事
準備④ 導入タスクを管理する
オムニチャネル化は店舗スタッフや多くのシステムが関与して行われる作業です。システム導入やお客さまへのご案内のために必要なタスクを洗い出して対応者に割り振り、スケジュールを組みます。
一般的に、関係者が多いことを踏まえて対応者のスケジュールを調整する必要があります。無理な導入スケジュールでは、予期せぬトラブルが生じた際にお客さまやスタッフが混乱することがあるため、一定の余裕を持たせて進行することが重要です。
まとめ
オムニチャネル化は、お客様との関係性を深め、より豊かな購買体験を提供するための重要な取り組みです。そして、その成功には入念な事前準備やスムーズなプロジェクト進行が欠かせません。
一方、オムニチャネル化のプロジェクトは業務フローの見直しや組織の意識統一、現場スタッフへの落とし込みなど、考慮すべき要素が多岐にわたるため、トラブルも生じやすいという特徴があります。
だからこそ、自社に最適な進め方を慎重に検討することが重要です。Omni Hubは多くの事業者さまとオムニチャネル化のプロジェクトを進行しており、その実績をもとに課題整理や対処についてご提案いたします。オムニチャネル化を推進するうえでのお悩みがありましたら、お気軽にOmni Hubチームへご相談ください。