2021年4月にサービスを開始したオムニチャネル会員連携アプリ「Omni Hub」は、サービス開始3周年を迎えました。コロナ禍によるEC需要の拡大、消費者行動の変化、オムニチャネル化の加速など、小売業界にパラダイムシフトが起こる中、事業者様に寄り添い支援してきたOmni Hub事業責任者の井形に、コロナ禍以降のオムニチャネル化の変遷と、今後求められる顧客体験やオムニチャネルの未来について話を聞きました。

インタビュイー

Omni Hub事業責任者 井形 岳史

2016年に株式会社フィードフォースに新卒入社後、自社サービスの広告代理店向けセールス担当として従事。その後、Googleショッピング自動運用サービス「EC Booster」のカスタマーサクセスを経て、Shopifyを活用した新規事業開発を担当。Shopify – スマレジ間のオムニチャネル会員連携アプリ「Omni Hub」のローンチに伴い、本アプリの事業責任者を務める。「いちばんやさしいShopifyの教本」共同執筆者。


Omni Hubは、2021年4月27日にサービスをリリースしました。
当時は、2020年から続くコロナ禍の真っ只中で、多くの事業者様がEC事業への新規参入や規模拡大を図る一方、店舗の在り方についても見直しを迫られている状況でした。

消費者行動の変化に伴い、店舗とECを繋ぎ、顧客にシームレスな購買体験を提供する「オムニチャネル」の考え方に再び注目が集まっていたものの、オムニチャネル化には個別開発が必要で、多大な時間と費用がかかるのが一般的でした。そのため、コロナ禍で依然として先行きが不透明な状況下では、莫大な費用がかかるオムニチャネルへの積極投資が難しいと考える事業者様が多かったです。

フィードフォースとしては、このような背景を受けて大きな環境変化に対応する事業者様を支援したいと考え、Shopifyとスマレジの会員情報を連携し、オムニチャネル化を迅速かつ手軽に、そして低コストで実現できるアプリ「Omni Hub」をリリースしました。

▼ Omni Hubサービス開発の経緯や背景については、下記の記事もご覧ください。

サービスリリース直後は、私と開発責任者の2名体制だったこともあり、正直なところ新サービスらしい華やかなプロモーション活動は何一つできませんでした。当社で既にお取引のあった企業にご紹介したり、ご興味を持っていただけそうなメディアにご紹介したりなど、すごく地道な活動だったのですが、そのような中でも『次の一手として、まさにそのようなことを考えていた。一度、話を聞かせて欲しい』というお声をいただくことが大変多かったです。決して多い件数では無いものの、リリース直後からご相談が途切れることは無かったですね。

「オムニチャネル化が”当然”のものに」コロナ禍を経た事業者の意識変化


サービスをリリースした2021年は「コロナ禍がどこまで続くのかわからない」「店舗に人は戻ってくるのだろうか」など、小売事業者様にとっては、まだまだ先が見えない状況でした。そのような状況下で、システム導入をしても「顧客情報の一元化をやる意義はあるのだろうか?」と悩まれていた事業者様が多かったと記憶しています。

しかし現在は、コロナ禍も収束し消費者の店舗回帰が進んでいる中で「顧客情報の一元化はやらない理由が無い」と、最初から導入する前提でお問合せをいただくことが増えました。

お問い合わせの内容についても「どのように進めていったら良いか?」というように、具体的な導入プロセスに対してのご質問をいただく事が多くなりました。これは、店舗とECの顧客情報一元化やポイント共通化が「あった方が便利」から「あって当然のもの」へと、広く浸透してきているからではないかと思います。

他にも、コロナ禍にオンライン事業を立ち上げたマーチャントさんが、実店舗を出店されるケースも増えているように感じます。ECを起点とした事業を運営されてきたからこそ、店舗を出店するにあたり「顧客情報一元化とポイント共通化」は必須条件だと考えお問合せをいただくことが増えています。

サービスリリース当初は、「店舗限定のスタンプカード」と「オンライン限定のポイントプログラム」の共通化について課題を感じている事業者様が多かったのですが、現在は、さらに一歩踏み込んで「ポイントプログラム」だけではない「自社らしいロイヤリティ施策」や「自社ならではの店舗体験」をどう作っていくのか?という点に課題を持つ事業者様が増えているように思います。

消費者の店舗回帰が進む中「どうすればお店に来てもらえるのか?」「どうすればお店でより豊かな体験を提供できるか?」といった検討や、「ロイヤルカスタマー向けの店舗限定のサービス」などの検討が増えてきている印象です。

今後、人口が減少する日本では、市場の規模感も変化していきます。そのような状況下では、既存のお客様との関係性がより重要になっていくと考えられます。「お客様に長く付き合ってもらうためには、どうすれば良いか」と考え、ロイヤリティ施策を構築する事業者様が増えているように感じています。

やはり、店舗と本部の連携がスムーズであるという事は、オムニチャネル化を進めるにあたってとても重要だと感じています。

本部側がオムニチャネル化を実現したいと考え、Omni Hubの導入を決定したとしても、店舗側と上手く連携できていないと、なかなか導入が進まないといったケースは多く見受けられます。反対に、店舗側の課題感を本部側が把握できていないと、せっかくOmni Hubを導入しても、店舗が求めていたものとはズレた形の導入になってしまったり、「機能を使いこなせない」といったことにも繋がりますので、店舗と本部のコミュニケーションがとても大事だと思います。

もし、課題やゴールが漠然としているような場合でも、全体的なビジョンや、企業・ブランドとしては「こういうことをやっていきたい」のようなお話をいただければ、私達としては、導入済み企業の成功事例をご紹介できたり、Omni Hubの機能やご提案できることも増えますので、ぜひお気軽にご相談いただければと思います。

例えば、PAPABUBBLE様では、店舗スタッフに「なぜ今この取り組みをするのか?」の意図や詳細を共有するための説明会を実施し、導入前に可能な限り不明点を解消したそうです。
加えて「1年後、60万人のお客さまと繋がりましょう」と全体での目標を掲げ、スタッフが一丸となれるような体制を準備したと伺い、大変良いお取り組みだと感じました。

連携会員数500万人突破!サービス成長背景にあるOmni Hub導入サポートにかける想い


2024年5月時点で、Omni Hubをご利用いただいている事業者様は100マーチャントを突破し、導入されている店舗数は、2,000店舗を越えました。さらに、連携している会員数は500万人に上ります。

特に最近は、大規模な事業者様達が既存システムからの切り替えに向け、調査や検討を重ねてきたものが実現に向けて動き始めているように感じています。

印象深いポイントはいくつもありますが、一つ挙げるとするなら、「Shopify Flow等を利用して他アプリと連携して価値創出できるようになったこと」があると思います。

スイーツメーカーである株式会社BAKE様では、Omni Hubリリース当初からサービスにご興味をお持ちいただき、導入をご検討いただいていました。BAKE様の実現したい内容として、店舗とECのポイント共通化、モバイルアプリ活用、LINEアカウント活用というのが挙げられており、このために「Omni Hub」と、Stack社が提供するShopifyアプリ「VIP」や「Appify」の連携方法を2社で模索してほしいとのご相談がありました。

当初は、APIを使った連携方法を検討していたのですが、Omni Hubの開発責任者が「Shopify Flow」を用いた連携方法を見出したことで、BAKE様のご要望にも応えられるアプリ連携を実現することができました。

このShopify Flowを介したアプリの連携方法を見つけられたことにより、「どこポイ」など他社アプリとの連携も増え、Shopifyのエコシステムを活用してOmni Hubとして提供できる価値が広がったと感じています。

関連記事:「OMOはBAKEブランドにおける最重要テーマ」BAKEが語る、店舗・ECの顧客情報一元化を実現するまでのプロセスと成功の秘訣

やはり、導入までのサポートの難易度は上がってきていると思います。
店舗数が多い事業者様であれば、当然全体への周知の難易度は高くなりますし、プロジェクト全体で整合性を取ることの難しさを目の当たりにすることもあります。

もともと構築されているシステムやオペレーションフローがある中で、Shopify、スマレジ、Omni Hubにシステムを切り替えることはとても大変なことですし、事業者様にとっての「大きな決断」だと思っています。その「大きな決断」をされた背景には、切り替えることで運営コストが下がったり、打てる施策の幅が広がるといった理由があります。

この「大きな決断」は、長年一生懸命頑張ってきた企業が、次の何十年を生きて行くための「変革」を意味すると思っています。これは勇気あるチャレンジで、すごく頑張って欲しい。私達はそのための手助けを行っているのだと思っています。

事業者様の将来に関わる大きな変革ですので、難易度は高くとも一つ一つ丁寧に、真摯にサポートしていきたいと思っています。

「小売事業者の未来を支えるために」陰からオムニチャネル化を先導していく


今後は店舗体験がより洗練されていくと考えています。顧客とのエンゲージメントを深め、店舗での買い物が楽しい経験となるような環境が、さらに重要視されると思っています。

2020年から2022年にかけてのコロナ禍では、店舗の運営や全体の事業運営に大きな影響が出ました。多くの小売事業者様にとって大変悩ましい期間だったと思います。

2023年から2024年には、街に人の流れが戻り始め、さらにインバウンドの回復も見られるなど、コロナ禍の影響が徐々に薄れています。現在、特に顕著な問題として「人手不足」が挙げられていますが、これらの課題への対応が今後の重要なテーマになっています。加えて円安による物価高騰などマクロ経済全体も、不安定な状況が続いています。

現状は、コロナ禍からの回復、揺り戻しを含む経済環境の変化に適応することが求められるフェーズにあり、目の前の課題に対処している段階だと認識しています。このフェーズが一段落した後に、顧客とブランドの関係性を深めていくための「顧客ロイヤリティを高める取り組み」や「テクノロジーの活用」「店舗体験の向上」が求められると思っています。

顧客ロイヤリティを高める取り組み」については、例えばロイヤルカスタマーに向けた「一部店舗限定のコンシェルジュサービス」などがあります。店舗だからこその特別なサービスや体験が得られるというもので、既に一部のブランドでは取り入れられつつあります。

テクノロジー活用」に関しては、店舗におけるマイクロコンバージョンを取る仕組みなどで、今後より整備されていくと思っています。来店したけれど購入には至らなかったお客様に対して、オンラインでアプローチしていきたいと考える事業者様は多いです。オンラインストアでは、そのようなお客様の行動も可視化されていますし、例えば「カゴ落ちメール」のような、お客様の購入前の行動に合わせたメッセージも配信できますよね。

店舗でも、そのような体験を含めて「店舗とECの垣根を越えたお客様とのコミュニケーション手段」が考えられていくのが、これからの時代なのかなと思っています。

事業者様には、それぞれに課題やこれまでの経緯があります。特に長く事業運営をされている企業では、中長期的な視点で運営体制を見直す必要が生じることもあります。
Omni Hubとしては、各事業者様に寄り添いながら根気強く状況を整理し、個社のニーズにあわせて最適な導入、構成を提案できることが大事だと考えています。

我々は小売事業者ではないからこそ、課題を抽象的かつ俯瞰的に考えられると思っています。その事業者様が、この先の10年、20年とサービスを提供し続けられるようにするために、Omni Hubの視点からどのような提言ができるかは非常に重要だと思っています。

Omni Hubのシステム的には、実際にお客様に目に見えるものであったり、売上の源泉になるようなタイプのサービスではないので、たぶん一言で言うと「黒子的」な存在なのかなと思っています。黒子として事業者様を支える一方で、オムニチャネル化を先導していくガイドになれればと思っています。

機能アップデートとしては、BOPIS(店頭受け取り)や、店舗購入・自宅受け取りなど、特に店舗の体験を洗練する機能をもっと提供していきたいと考えています。

将来的に人口が減少すれば、市場を維持することが困難になると予想されます。
事業運営においても、店舗運営に割ける人員や、店舗への投資が難しくなることを考えると、店舗の在り方を考えることは非常に重要だと考えています。それでも人はリアルな体験を求めて店舗に買い物に行きますし、インバウントの方々も来ることを考えると、リアルの場所にどのような付加価値を作るかが、重要になってくると考えています。

また、現在はShopifyとスマレジを利用する事業者様にしかサービスを提供できていませんので、他のプラットフォームを利用する事業者様にもサービスを提供できるようにしていくことが肝要だと思います。

今後より一層、事業者にはロジスティクス含めた全体の体験の向上や、運営オペレーションの整備が求められると思いますので、我々としても全体を俯瞰して、オムニチャネル・OMOの重要な体験を作っていきたいと考えています。

※この記事は、2024年4月に実施したインタビューに基づいて作成したものです。
※記事の内容は掲載時点のものです。


オムニチャネル会員連携アプリ「Omni Hub」について


「Omni Hub」(オムニハブ)は、「店舗とECをつなぎ、購買体験をアップデートする」をミッションに掲げる、オムニチャネルでの顧客体験向上に貢献するアプリです。初期費用なし、開発不要でShopifyで構築したオンラインストアとスマレジで管理する店舗の間で顧客情報を一元化することで、共通でのポイント施策実施やメッセージ配信など、顧客体験の向上による売上増加をご支援しています。
本アプリは、Shopify Experts、スマレジ Developers Expertに認定されている株式会社フィードフォースが提供しています。(※2つの認定を有している国内唯一の企業です。)